契約書の日英翻訳の作業中です。「~を含め、...」という箇所に、いつものように、一瞬、手が止まります。「会社は、訴訟費用、弁護士費用、年利6%を含め、すべての経費を負担するものとします」(秘密保持のため内容を変更してあります)という契約書の1文を、英語に訳しています。この文の「を含め」というところに、includingを使うだけでよいのか、それともincluding, without limitationにした方がよいのか、と考えて、一瞬、手が止まるのです。と言うよりも、少し誇張して言えば、including, without limitationを使うべきであるという強迫観念のようなものに襲われてしまうのです。
including, without limitationを使うべきであるという強迫観念のようなものに襲われると言いましたが、それには理由があります。それは、英文で書かれた契約書に、この表現が多く見られるからです。私がいただく翻訳の依頼は、日英の契約書だけではありません。英日の契約書の翻訳も多いのです。つまり、英語で書かれた契約書を日本語に訳すことも多いのですが、その英日の翻訳作業中に、この表現にしばしば出会います。その場合に、私は、including, without limitationやincluding, but not limited toを「などを含め、すべての」とか、場合によっては「~など、その他のいかなる......」「~など、その他の......一切」、単に「その他の」と日本語に訳しています。だから、逆に、日英翻訳で、上に掲げたような「会社は、訴訟費用、弁護士費用、年利6%を含め、すべての経費を負担するものとします」という日本語に出会うと、including, without limitationを使ってみたくなるのです。そんな強迫観念のようなものに襲われてしまうのです。
少し話を前に戻しますが、including, without limitationやincluding, but not limited toは、「~を含むが、それに限定されない」とか、「~に限定されるものではない」と訳すべきで、「~を含む」では十分ではない、と考えておられる方もいるのではないでしょうか。including, without limitationやincluding, but not limited toとincludingは別の意味を持っているのであるから別の日本語をあてるべきである、と主張される人がいるかもしれません。日本の代表的な契約書翻訳の入門書(注1)の中には、別のものであるとはっきりと述べているわけではありませんが、そのように理解しても無理のないような説明がなされているものもあります。このように考えるのであれば、上に揚げました日本語の契約書の「を含む」には、including, without limitationを使ってはならないことになります。私が襲われるという強迫観念は誤謬・誤解からくるものである、ということになります。
それに、「~を含むが、それに限定されない」というような表現は、日本語で作成された契約書では、まず見かけません。ないことはないのですが、それはアメリカで法学教育を受けた日米両法に詳しい日本の学者や実務家の方の書物(注2)の中の模範または推奨の契約書で見かける程度で、日英翻訳の実際の仕事でそのような表現に出くわすことはまずないと言ってよいと思います。ですから、includingが「含む」であって、including, without limitationまたはincluding, but not limited toはそれとは違うのである、というのであれば、日本語の契約書を英語に訳す場合に、including, without limitationやincluding, but not limited toは、使用する機会はほとんどないことになるのですが、しかし、日本語を英語に翻訳されたものに、「を含む」に当る日本語にこの表現をしばしば使用されているものを見かけるのです。
その例を、契約書ではないのですが、内閣官房によって平成17年以来推進されている法令外国語訳(注3)として発表されている「法令翻訳データ」の「会社法」(注4)の翻訳から拾い出してみましょう。できるだけ簡単な条文が分かりやすいと思いますので、会社法第2条第3項にします。「子会社 会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。」です。これに対する英訳は「"Subsidiary" means any entity which is prescribed by the applicable Ordinance of the Ministry of Justice as the juridical person the management of which is controlled by a Company, including, but not limited to, a Stock Company a majority of all votes in which are owned by the Company;」となっています。上の例では、「その他の」の日本語を「including, but not limited to,」の英語で表現しているのです。それぞれ下線を引いておきました。この条文の下線部の「その他の」の意味ですが、これは法令用語として使用されている場合には、「その他」とは違って、「その他の」の前に出てくることばは、後に出てくる一層意味内容の広いことばの一部をなすものとして、その例示的な役割を果たす趣旨で使われるのが決まりとなっています。(注5)この条文を翻訳された翻訳者は、「その他の」を「を含む」と読み直して英文をつけているのでしょう。(注6)このように、「~を含むが、これに限定することなく」というような表現でなくても、しかも、会社法第2条第3項の日本語のような場合にも、including, but not limited toが使われているのです。私が「を含む」という表現に、日本語の契約書の中で出会うときに、includingの後に、without limitationとか、but not limited toとかを付けたい強迫観念に襲われるといったのは、実は、このようなことからなのです。
では、including(以下①と言います)とincluding, without limitationまたはincluding, but not limited to(以下②と言います)とは、いったいどのように考えたらいいのでしょうか。まず何よりも、私が座右に置いている書物(注7)に教えを請うことにします。
早川・椙山は、法律語には過度なまでに精確さを期した表現が多いとして、その中の一つに②を掲げ、①だけでよいのに②として念には念を押していると述べ「これらはもともと精確を期して(それだけが目的ではないが)できた言い回しであろうけれども、今日では法律関係や義務関係を過不足なく規定する目的には役立っていない」(注8)と結論されています。メリンコフも、法律用語の特徴の一つとして過度の精確さ(extraordinary precision)(注9)を挙げ、Attempt at extreme precisionと題する項目で、②のような表現をあげ、成功しているかどうかはともかく、そのような過度な表現の試みは、法律のことばを日常語から区別しようとするものである(注10)としつつ、そのような過度の精確さについては、早川・椙山とまったく同じ趣旨の批判を加えています。(注11)とにかく、私が座右にしている書物によれば、①と②はまったく同じ意味であることが分かります。しかも、②よりも①を使うべきであると勧めているのです。
このように、①と②は同じ意味であるのですが、もう少し、その意味を深く見てみようと思います。ブラックの法律辞典に当ってみます。includeの項目は次のようになっています。日本語に訳してみましょう。「あるものについて一部として含むこと。分詞であるincludingは、一部の事項(list)を典型的なものとして示す。(例)「被告は、口頭による名誉毀損(slander)、文書による名誉毀損(libel)など(including)、5つの不法行為による請求を主張した」。しかし、文書作成者(drafter)の中には、including, without limitationやincluding, but not limited toの言い回し(phrases)を使う者もいるが、意味は同じである。なお、namelyを参照せよ。」(注12))なお、この法律辞典の主幹のBryan A. Garnerの用法辞典(注13)は、namelyの意に誤用されることがあるが、単に列挙的 (merely exemplary)であって、包括的ではない(not exhaustive)ことを強調しています。
以上のことから次のようなことになるでしょうか。①と②は同じ意味を表し、includingの後にくる列挙されている語は、includingの前にある語の中に含まれる一部のもので、includingの後の語に出てくるいくつかの語が前に出てくる語の内容のすべてを示しているわけではない、ということです。
長くなりました。最後に、私が契約書の翻訳の仕事で何かと頼りにしているアダムズのマニュアルが2版として最近出版されました。やっと手に入りました。これを参考にしながら、私のこのトライアル&エラーを終わらせることにいたします。アダムズは、①の代わりに②を使用することは有益どころか混乱するだけだ、として、ブラックの法律辞典に言及した後、②が契約書で多く使用されるのは、過去に裁判所が①の表現を制限列挙的に解釈したことがあったため、契約書の起草者が用心して②を使用するようになったことによるものである、としています。いくつかの判例に言及し、制限的に解する判例は例外であって、大方の判例は例示的に解していることを詳細に検討し、②についても制限的に解した判例があり、裁判所は、①とか②の言葉の表現の問題としてよりも当事者の意思を探求して判断しているとして、②も①と同じように制限的に解される危険はあると述べた後、結論として、①と②とは同じ意味であり、裁判所も最近日常的な言葉を使うようになっているのであるから、日常的な用語である①で十分であって、むしろ①が混乱なく安全であって、①を使用すべきことを勧めています。(注14)これ以上詳細にアダムズについて触れると長くなり過ぎますので、できればアダムズの挙げる判例を検討した後で、別の機会に改めて詳細に検討することにして、今回はこのあたりで終わることにします。今回の私の「契約書翻訳現場」では、結局includingを使用することにしました。
- (注1)例えば、宮野準治・飯泉恵美子『英文契約書の基礎知識』52頁(ジャパンタイムズ・1997)
- (注2)例えば、加藤君人・片岡朋行・大川原紀之『エンターテインメントビジネスの法律実務』15頁(日本経済新聞社・2007)
- (注3)http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hourei/index.html
- (注4)http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hourei/data/CA1_4_2.pdf
- (注5)林修三『法令用語の常識』16-18頁(日本評論社・第3版・1975)
- (注6)会社法上の子会社の定義に関する解釈については、江頭憲治郎『株式会社法』
- 8頁注12(有斐閣・第2版・2008)参照
- (注7)早川武夫・椙山敬士『法律英語の基礎知識』(商事法務・増補版・2005)
David Mellinkoff, The Language of the Law, 2004 Resource Publications - (注8)早川・椙山、上掲書、245、246頁
- (注9)David Mellinkoff, ibid, p.22
- (注10)David Mellinkoff, ibid, p.23
- (注11)David Mellinkoff, ibid, p.290 . なお、参照、Richard C. Wydick, Plain English for Lawyers, p.61, p.66, 5th ed., 2005, Carolina Academic Press
- (注12)Black's Law Dictionary, pp.777-778, 8th ed., 2004, West
- (注13)Bryan A. Garner, A Dictionary Modern Legal Usage, pp.431-432, 2nd ed., 2001, Oxford
- (注14)Kenneth A. Adams, A Manual of Style for Contract Drafting, pp.247-251, 2nd ed., 2008, ABA Publishing

