アメリカ信託法関係の契約書、例えば、信託契約書(Trust Agreement)、財団設立契約書(Foundation Agreement)、投資顧問契約書(Investment Advisory Agreement)等の翻訳に当たって欠くことのできないサイトが「統一信託法典(2005)」である。信託はイギリスで考案され、エクイティの法理として発展し、今日に至っている。それは、英米法全体を特色づける制度である。従って、信託法関係の契約書に限らず、英米契約書一般の翻訳、さらには英米法の理解に当たって、信託法の素養は不可欠であり、更に、日本を含め世界的な広がりを見せている信託制度を理解するためにも、本サイトは便利であり重要である。
統一信託法典(2005)は、その冒頭で「The Uniform Trust Code (2000) is the first national codification of the law of trust. (統一信託法典(2000)は、信託法について全国的な規模で作られた最初の法典である。)」と述べている(Uniform Trust Code, Prefatory Note)ように、2000年に採択された統一信託法典(2000)を若干修正採択されたものである。それは、統一州法委員全国会議(National Conference of Commissioners on Uniform State Laws)とアメリカ法律協会(American Law Institute)が提携し、各州の信託法の統一を図る目的で採択された。(参照、樋口範雄『アメリカ信託法ノートⅠ・Ⅱ』弘文堂、平成12、平成15。大塚正民・樋口範雄編著『現代アメリカ信託法』有信堂、2002)
統一信託法典(2005)は、各州の信託法の統一を目指すものであり、法典を採択するか否かは各州議会の権能に任され、しかも、そのほとんどの規定は任意規定(Default Rule)(参照、同法典第1編第105条「任意的規定および強行的規定(Default and Mandatory Rules)」)であって個々の契約書の信託条項の規定がそれに優先する。しかし、これらの事実は、この法典参照の有用性をいささかも減殺するものではない。この法典にはまた、過去のいくつかの法典が盛り込まれており、契約書を翻訳したり英米法関係の法律を理解する上で参考になる。たとえば、統一州法委員全国会議が1994年に採択した統一プルーデント・インベスター法(Uniform Prudent Investor Act)は、同法典第9編として取り込まれている(プルーデント・インベスター・ルール(合理的な投資家のルール)については、上掲、大塚正民・樋口範雄編著『現代アメリカ信託法』第7章、138頁以下参照)。
信託法はイギリスで育成され、アメリカがこれを継受したものであるが、イギリスとアメリカでは異なった発展を遂げた部分もある。例えば、アメリカの信託契約書でよく見かける浪費者信託条項(Spendthrift Clause)は、その典型的な例である。浪費者信託は、意思能力の有無にかかわらず受益者による受益権の処分を禁止するというものであるが、その条項の取扱いはイギリスとアメリカ、そしてアメリカの州によっても異なるとされる。つまり、イギリス信託法ではその概念が否定され保護信託(protective trust)の形態として発展し、アメリカにおいても州により異なる取り扱いがなされている(参照、樋口、上掲「アメリカ信託法ノートⅠ」163頁以下)。この点について、統一信託法典(2005)は、第105条(b)項(5)号で、本法典第5編に規定する浪費者信託条項を強行規定であるとし、つまりそれに反する信託条項を無効として、第502条(a)項で「A spendthrift provision is valid only if it restrains both voluntary and involuntary transfer of a beneficiary's interest.(浪費者信託条項は、受益権の任意的移転および強制的移転のいずれをも禁止している場合に限り、有効とする。)」と規定して、浪費者信託条項の有効性を認め、同条(b)項で「A term of a trust providing that the interest of a beneficiary is held subject to a "spendthrift trust," or words of similar import, is sufficient to restrain both voluntary and involuntary transfer of the beneficiary's interest.(受益者の権利は「浪費者信託」または同趣旨の文言に服する旨を信託条項で定めることによって、受益権は、任意的および強制的に移転することを禁止されるものとする。)」として、受益権の譲渡を禁止し、同条(c)項において「A beneficiary may not transfer an interest in a trust in violation of a valid spendthrift provision and, except as otherwise provided in this [article], a creditor or assignee of the beneficiary may not reach the interest or a distribution by the trustee before its receipt by the beneficiary.(受益者は、有効な浪費者信託条項に違反して信託上の利益を移転することはできず、かつ、本[編]に別段の定めのある場合を除き、受益者の債権者または受益者の譲受人は、信託上の利益または委託者がなした分配を、受益者が受領するまでは、追及することができない。)」として、差押禁止を認めている。上記条項の1つ前の条文第501条でもまた、「RIGHTS OF BENEFICIARY'S CREDITOR OR ASSIGNEE(受益者の債権者または受益権の譲受人の権利)の表題の下に、これを裏側から次のように規定する。「To the extent a beneficiary's interest is not subject to a spendthrift provision, the court may authorize a creditor or assignee of the beneficiary to reach the beneficiary's interest by attachment of present or future distributions to or for the benefit of the beneficiary or other means. The court may limit the award to such relief as is appropriate under the circumstances.(受益者の権利が浪費者信託条項に服していない範囲内で、裁判所は、受益者の債権者または受益者の譲受人に対し、受益者に帰属する現在または将来の配当または受益者の利益に対する差押えその他手段によって、受益者の利益を追及する権限を認めることができる。裁判所は、当該状況に応じた適切な救済にその請求の範囲を制限することができる。)」
今日、信託の手法は世界的な広がりを呈している。わが国においても、信託法が2006年に改正され、それに伴って新信託業法も2007年に施行された。統一信託法典(2005)の本サイトは、英文契約書の翻訳ばかりでなく、信託関係業務一般にも役立つと思われる。

