英文契約書における「その他の」・「その他」に対する英語表現

日本の法令や契約書の用語として使用される「その他の」と「その他」の表現は、日常用語の通常の用法とは違って、異なった意味をもっているとされている。前後の語呂や語感等の関係で、「その他の」と使うべきところに「その他」が使われることがないわけではないが、「その他の」と「その他」は、別個の意味を伝えるための法律用語であるというのが、約束になっている。以下、「その他の」・「その他」が、英文契約書等の法律文書ではどのように表現されるのか、を考えてみようと思います。

まず初めに、「その他の」と「その他」との法律用語上の違いを、林修三「法令用語の常識」17頁が挙げる用例を使って、両者の違いを確認しておきます。(以下の下線は、筆者が加えました)

  • (1)内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
  • (2)一般職の職員に対しては、扶養手当、通勤手当、勤務手当その他政令で定める手当を支給する。

(1)のように「その他の」が使われる場合には、「その他の」の前に出てくることばは、後に出てくる一層意味内容の広いことばの一部をなすものとして、その例示的な役割を果す趣旨で使われている。ここでは、「内閣総理大臣」も「国務大臣」の一人であるという法律上の概念を前提に、「国務大臣」の例示として「内閣総理大臣」が挙げられている。

(2)のように「その他」が使われる場合には、「その他」の前にあることばと後のことばとは、並列の関係になっていて、(2)について言えば、「扶養手当」と「通勤手当」と「勤務手当」と「政令で定める手当」とは一応別の観念として並列の関係になっている。したがって、一般職の職員には、明示された上記4つの手当が支給されることになる。「政令で定める手当」については、政令で定められるが、その中では、「扶養手当」や「通勤手当」や「勤務手当」について定められることはない、と解釈されます。
これに対して、もしこの場合に、「政令で定める手当」の前に「その他の」が使われていたらどうなるか? つまり、「一般職の職員に対しては、扶養手当、通勤手当、勤務手当その他の政令で定める手当を支給する」となっていたら、どのように解釈すべきか?その場合には、「扶養手当」「通勤手当」「勤務手当」は、「政令で定める手当」の例示ですから、あらためて政令で一般職に支給する手当を定めて、その中で、「扶養手当」や「通勤手当」や「勤務手当」等も定めることになる。

以上のように、林修三「法令用語の常識」17頁は、「その他の」と「その他」の用語の違いを説明しているのですが、この二つの用語が今日でも上記のように正確に使い分け使用されているのだろうか、という疑問もありますし、同書18頁も認めているように、語呂、語感等の関係で、「その他の」を使うべき際に「その他」が用いられたり、またその逆も行なわれているようにも見受けられます。

そこで、最近の立法の中から、「その他の」と「その他」の用語がどのように使われているのか、を確認し、その後で、ここでの問題の核心である、「その他の」と「その他」の英文契約書等の法律文書での英語表現を検討してみることにします。

どの法令でもいいのですが、平成17年[2005年]法律第40号として制定された法律で、共同営利事業を営む企業形態として、有限責任事業組合(日本版LLP [Limited Liability Partnership])の制度の創設(江頭憲治郎『株式会社法』10-11頁)として注目された「有限責任事業組合契約に関する法律」を素材にして、「その他の」と「その他」の用語が最近どのように使われているのかを確認してみることにします。この法律では、「その他の」が1回、「その他」が8回ほど使用されています。その中のいくつかを取り出して検討することにします。以下、(3)~(6)に掲げました。

  • (3)組合員は、金銭その他の財産のみをもって出資の目的とすることができる。(11条)
  • (4)前項の組合の会計帳簿には、各組合員が履行した出資の価額その他経済産業省令で定める事項を記載しなければならない。(29条)
  • (5)組合員の除名は、組合員がその職務を怠ったときその他正当な事由があるときに限り、他の組合員の一致によってすることができる。(27条)
  • (6)重要な事由があるときは、裁判所は、組合員その他利害関係人の申立てにより、清算人を解任することができる。(40条)

(3)について見ると、「その他の」の後にある「財産」は、前にある「金銭」の意味内容の広いことばであると考えるのであれば(この解釈については後に取り上げます)、「金銭」が「財産」の一部をなし、その例示的な役割を果していと解釈することができ、これは、林修三「法令用語の常識」17頁の「その他の」の用法に合致していることになります。

(4)について見ると、「その他」の前の「各組合員が履行した出資の価額」と、後の「経済産業省で定める事項」とは、並列の関係になっていて、それぞれ別のものと観念され並列されていると考えられます。林修三「法令用語の常識」17頁の説明する「その他」の用語に従って使用されていることがわかります。

(5)については、「その他」の前の「組合員がその職務を怠ったとき」は、後の「正当な事由」のひとつの例示と解釈できますし、(6)についても、「その他」の前の「組合員」は、後の「利害関係人」の概念に包摂されていると解釈するのが率直でしょう。したがって、(5)(6)の「その他」は、いずれも「その他の」と使うべきところを語呂や語感等で「その他」を使ったのでしょう。林修三「法律用語の常識」18頁も、語呂、語感等の関係で、「その他の」を使うべき際に、「その他」が用いられる例がないではない、と述べていますが、この(5)(6)は、「その他の」と使うべきところに「その他」を使用したものと思われます。

このように、「その他の」と「その他」は、この法律においては、林修三「法律用語の常識」の解く用語の使用法とは必ずしも合致していませんけれども、だからといって、異なった意味を持つとされているこの二つの用語を区別して考えることは、後で明らかにするように、契約書等の翻訳に当たって、とても有用です。

契約書などの法律文書の翻訳に当たっては、山岡洋一「翻訳とは何か」49頁でも指摘されているように、原文の表面にきわめて忠実に訳すことが求められます。契約書の翻訳の場合には、文芸翻訳などとは違った目的を持っているからです。それは、翻訳を依頼される人たちの目的あるいは必要性に関係があるのですが、契約書の翻訳文は、小説の翻訳文のように、翻訳後の訳文だけを読む読者を対象としているわけではないのです。小説の翻訳文の場合には原文を対象しながら訳文を読む人は例外でしょうが、契約書の翻訳文の場合には、訳文は、原語の法文を理解し解釈する助けとして、原文を横に置きながら参照され使用されるのが原則です。したがって、契約書の翻訳に当たっては、原文と訳文とをできうるかぎり一対一に対応させるのが常識なのです。それが、契約書の翻訳を依頼された方に対する礼儀であり、それが契約書の翻訳者の務めでもあると思います。ですから、「その他の」と「その他」を英語に訳す場合においても、このことに十分留意しなければならないし、「その他の」と「その他」は、英語ではどのように訳したよいか、を考えることも必要になってくるのです。

「その他の」と「その他」の英語表現を考えるために、日本法令外国語データベースから、(3)(4)(5)(6)に対応する英文を以下それぞれ(7)(8)(9)(10)に抜き出し、日本語とその英文を照応することから始めることにします。

  • (7)A Partner's capital contribution to the Partnership shall be made only in the form of cash or other properties. (Article 11)
  • (8)The accounting books of a Partnership set out in the preceding paragraph shall include the amount of capital contribution made by each partner and other matters as provided by Ordinance of the Ministry of Economy, Trade and Industry. (Article 29)
  • (9)Expulsion of a partner may be effected with the unanimous consent of the other partners only with justifiable cause including, without limitation, the cause that such partner fails to perform its duties; provided, however, that the Written Partnership Agreement may provide that the unanimous consent of the other partners is not required. (Article 27)
  • (10)If any material grounds exist, the court may dismiss a liquidator upon the motion of any interested person, which includes a partner. (Article 40)

(7)では、or other、(8)では、and otherが使用されています。orやandは、対等、同等、あるいは等位を表現することばですから、orやandの前後にくる語のいずれかの一方が他方の例示になったり、包摂している働きはないでしょう(例えば、Cambridge Grammar of English, p.262, p.315, p.557)。or other, やand otherとも、「その他」に対する英語表現であることは明らかです。(4)の日本文を訳した翻訳者は、「金銭」と「財産」を同等あるいは対等として、つまり並列関係と解釈して、そこで使用されている「その他の」を林修三「法令用語の常識」17頁の「その他」であると解釈して英語に訳しています。金銭の法律上の概念の特異性(潮見佳男『民法総則講義』468頁)を顧慮し、翻訳者は、「その他の」を「その他」と解釈したことによるものと思われます。(4)の「その他の」は、「その他」の意味と読むべきでしょう。

(9)(10)については、「その他」が「その他の」の代わりに使われていることはすでに指摘しました。翻訳者も同じように解釈しているようです。A including, without limitationBは、英文契約書等の法律文書でよく見かける表現ですが、Black's Law Dictionary, p.777; A Dictionary of Modern Legal Usage, p.431p;A Manual of Style for Contract Drafting, p.247によれば、A including, without limitationBは、includingと同じ意味であって、Bに出てくることばは、Aに出てくる一層意味内容の広いことばの一部をなす(partial)ものとして、その例示的 (illustrative)な役割を果す趣旨で使われていますので、「その他」とincluding, without limitationとは、それらの前後にあることばが逆になっているだけで、まさに同じことを表現していると思われます。

この法律の翻訳者は、法文の字面を表面的に理解するのではなく、林修三「法令用語の常識」17頁の「その他の」と「その他」の用語の使用方法を基準に、自らの解釈を翻訳を通して英文に表現していると言えます。翻訳に当たって基準を提供してくれる「その他の」と「その他」の用語の区別の原則は、契約書等の法律文書を翻訳する者にとって、極めて有用だと言えます。

このように「その他の」や「その他」の用語は翻訳に当たって、あるいは条文を解釈する上で重要なのですが、その英語表現についても、林修三「法令用語の常識」17頁が挙げる「その他の」と「その他」の用語は、「その他の」にはinclude, including,または including, without limitationを、「その他」にはor otherまたはand otherを当てることで、その日本語の意味を良く伝えることができるようです。

終わるに当たり、以上の英語の表現を使って、英文法令や英文契約書を日本語に訳してみようと思います。(11)と(14)はそれぞれ、英文法令と英文契約書の中の一文です。

  • (11)In determining the intent of a party or the understanding a reasonable person would have had, due consideration is to be given to all relevant circumstances of the case including the negotiations, any practices which the parties have established between themselves, usages and any subsequent conduct of the parties. (ウィーン売買条約8条3項)

(11)は、すでに外務省による訳が公表されていますので、その訳を(12)に、法律用語の「その他」を活用した訳を(13)で試してみることにします。(下線は筆者が加えました。)

  • (12)当事者の意図又は合理的な者が有したであろう理解を決定するに当たっては、関連するすべての状況(交渉、当事者間で確立した慣行、慣習及び当事者の事後の行動を含む。)に妥当な考慮を払う。(外務省訳)
  • (13)当事者の意図又は合理的な者が有したであろう理解を決定するに当たっては、交渉、当事者間で確立した慣行、慣習及び当事者の事後の行動その他の関連するすべての状況に妥当な考慮を払う。

次の(14)は、英文契約書の一文です。「その他」の表現を使って訳してみます。(15)がその訳文です。

  • (14)Licensor retains the right to approve Licensee's distribution scheme for the Licensed Products, including, without limitation, the pricing and revenue structures of distribution agreements under which Licensed Products are sold or distributed, and, in this connection, Licensor reserves the right to direct withdrawal of the Licensed Products from any distribution scheme which does not meet reasonable minimum revenue requirements.
  • (15)ライセンサーは、流通契約に基づき許諾商品を販売・流通するに当たっての当該契約上の価格及び収益構造その他のライセンシーの流通スキームを是認する権利を留保し、かつ、上記に関連して、ライセンサーは、合理的な最低収益条件を充足しない流通スキームからは許諾商品を直接に引き上げる権利を留保する。

「その他の」や「その他」に相当する英語に関する検討はこれで終わります。この検討を通して気がつくことは、契約書等の法律文書の翻訳に携わっている翻訳者たちは、翻訳を通して原文の条文を解釈した上、翻訳をしていることが分かります。別な言い方をするならば、契約書等の法律文書の翻訳者たちは、自己の法文解釈の結果を翻訳の依頼者たちに提示して、そのことによって、その任務を果たそうとしているのです。もちろん、そのためには、英語の知識、日本語の知識に加えて、条文を正しく解釈することができる法律の知識を要求されます。同時に、契約書等の法律文書の翻訳者たちは、自己が提示する翻訳文が、翻訳を依頼した人たちにより原文と対照され、解釈の参考にされているという事実を忘れてはならないと思います。

引用文献

  • 林修三『法令用語の常識』(日本評論社、3版、1975)
  • 山岡洋一『翻訳とは何か―職業としての翻訳』(日外アソシエーツ、2001)
  • 江頭憲治郎『株式会社法〔第2版〕』(有斐閣、2008)
  • 潮見佳男『民法総則講義』(有斐閣、2005)
  • Carter McCarthy, Cambridge Grammar of English, 2006, Cambridge, 2006
  • Black's Law Dictionary, 8th ed., West, 2004
  • B. A. Garner, A Dictionary of Modern Legal Usage, 2ed., Oxford, U.P., 2001
  • K.A. Adams, A Manual of Style for Contract Drafting, 2nd, ed., ABA, 2008

 

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